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 ■ 全国紙  


button月刊NO   99年9月号

情報発信のインフラづくり

  本文より抜粋

諏訪バーチャル工業団地の試行錯誤
1社に多数の下請け企業がぶらさがる典型的な企業城下町とは異なるとはいえ、この岡谷の町でも、親企業の海外シフトは少なからず影響を与えている。
しかし、地元企業も、この状況に手をこまねいているわけではない。もともと技術力をもつ産業集積地であり、独立心は旺盛。若手が中心になった新たな試みが、地域をかえようとしている。

情報発信のインフラづくり
「企業城下町として、このまま先細っていくわけにはいかない」
こんな思いから、機械商社・オオハシの大橋俊夫専務ほか、有志20名が中心となり96年に立ち上げたのが「諏訪バーチャル工業団地」だ。
これは、インターネットを介した情報共有化によって、一般的な工業団地にある集積メリットをバーチャルな空間にも広げようという試みだ。
じっさいの活動としては、メーリングリストを整備し、これを通じた会員間の情報交換や、資材調達情報の公開といった「情報交換の場の提供」を行うほか、勉強会なども行っている。ちなみに、現在の参加企業は70社、メーリングリストへの登録者数は、個人を含め100名に達したという。
これだけのネットワークを擁しているとなれば、目指すところは共同受注と考えがちだが、「即、受注をねらうものではない」と、大橋氏は明言する。
当初は、大橋氏をはじめ、メンバーの中にも、当然のごとく共同受注への期待があった。この団地設立の母体となった研究組織「インダストリー・ウェブ」でも、共同受注に関する検討は重ねてきた。しかし、一般の交流会活動と同様に、共同受注には課題が多い。
本音をいえば「技術的に難しかったり、納期やコストの制約が厳しいものから人に回したいのが人情」(伸和工作・宮沢秀明社長)ということだろう。
ほかの参加者の見方も「誰が仕事をとって誰に回すのか。各社の技術を活かし、それぞれに利益をあげられるような仕事はそうはない」(ダイヤ精機・小口成人常務)
「圧倒的なイニシアチブを取る人がいなければ、機能しない。しかも仕事としてやる以上、当然生産者リスクが生じる。その責任を誰がとるのかが問題」日拓精工業・荒井潔社長)と、現実的だ。
むしろ、共同受注を目的とした仕事の再分配システムを構築することは、集積地として力を付けるということと一致しない、という考えがベースにある。
「各企業にいま必要なのは、コア技術は何なのかを再確認すること。そして、それを相手に伝えるスキルとノウハウを培うこと」と大橋氏は指摘する。
ネットワークを通じて、他社との情報交換を盛んに行うことで、企業が自社の強さや弱さを客観的に把握すること。それがベースにあってこそ、ツールとしてのインターネットを活かすことができる。

動き出した企業連携の波
現在メンバーの企業間では、それぞれの特色や得意分野を認識するツールとして、効果が発揮されてきている。
「顧客から新規受注を打診されても、自社の業務外であれば、断らざるを得ない。協力できれば、顧客サービスにつながるはず」
 こんな思いをもった金型メーカーの伸和工作・宮沢秀明社長は、バーチャル工業団地などを介して知り合った中堅精密機器メーカー・ダイヤ精機製作所・小口裕司常務に受注を打診。その後、成約にこぎ着けた経験を持つ。
  また、コンピューター関連部部品製造の日拓精工・荒井潔社長は、デザイナーの堀内智樹氏とウェブ上で知り合い、現在は自社製品のデザインを共同で行うことも多い。
 さらに、ここに端を発した企業連携の動きを、岡谷市が行政としてバックアップに乗り出すという、新しい流れが生まれている。
 岡谷市は以前から、受注開拓や高度情報支援に積極的な自治体。その市がバーチャル工業団地のコンテンツに着目し、企業の情報化を支援する事業を構築。これを含む市の事業計画が、98〜99年の2年にわたって中小企業庁の委託事業である「コーディネータト活動支援事業」の対象に認定されたのだ。
  バーチャル工業団の協力で進めている具体的な事業は、公募企業のうち50社を対象にインターネットを活用した受発注など、高度利用研究の実験などを行うもの。地元CATV局の協力により同軸ケーブルを使用し、データー送信を高速化した点が強みだ。
この実証実験がもたらす効果は未知数。だが、わずか20人の有志による諏訪バーチャル工業団地の立ち上げが、行政の協力を即したといえる事実がここにある。この行政の支援を追い風に、地場産業地域の挑戦が今後も続けられることは、間違いないだろう。





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